歌集『思川の岸辺』(7)
擬人法にも注目した。哀憐と悲しみにつながっているようだ。
生まれてよりつひに笑はぬまま終る東土竜(あづまもぐら)
の完全なるいのち
二階のベランダの手摺りに手をかけしのうぜんかづらを
憎むごとゐる
炎帝が没するまであと一時間 のうぜんかづらは花散らし
やまず
避けがたき運命として掃除機は妻の鏡台に近づきにけり
鏡台に立てるこまごましき壜類のひとつひとつがわれを
見てゐる
引き出しを引けば十まり幾冊の短歌手帳が顔だしわらふ
冬空にかがやく遠き白雲はなにかを告げてうごきはじめつ
シロップの中に幾とせねむりゐし桃の缶詰いま開けられつ
力尽きて炎暑のみちに倒れたるキアゲハさへも見て過ぐるのみ
開けては閉め閉めては開けて冷蔵庫いつともなしに年とりてをり
小公園にいつかひろひし松毬(まつかさ)が本棚のすみにぽつり
とゐたる