天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

酒の歌(6)

わが食卓から

 酒造りに使われる水は酒造用水と呼ばれ、ほとんどが伏流水や地下水などの井戸水である。醸造所によって専用の水源を確保することが多い。水の硬度は、酒の味に影響する要素の一つ。軟水で造れば醗酵の緩いソフトな酒、硬水で造れば醗酵の進んだハードな酒になる。硬度の測定には、アメリカ硬度やドイツ硬度が用いられている。江戸時代以来、灘では宮水と呼ばれる硬水が使用されていたが、明治30年には広島県で軟水醸造法が開発された。なお水質基準に関しては、水道水などと比べるとはるかに厳格。


  酒をのみうつを散じていたりけり九月一日夜の雨ぞ
  急(せ)く              坪野哲久


  酒莨あるゆえいのちながらえきガンにもならずよい
  よいも来ず             坪野哲久


  はらわたに秋の冷酒の沁みわたりたのしとやせんかなし
  とやせん              坪野哲久


  まだうすきくちびるあはせ明けの野にたんぽぽの酒
  飲めばかなしも           永井陽子


  笹酒は冬のこころに飲むべしとしたたかな男文字の消息
                    永井陽子
  酒酌みてうるかを食(は)みて唄うたふ泣きたくなつたら
  またうたうたふ          恒成美代子


  滲みいだす酒のにほひとポマードの酸つぱいにほひを
  させて父居り            辰巳泰子


  くびほそき瓶出づるときこの酒はちひさき笑ひのこゑ
  たつるかな             高田流子