天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

川のうた(4)

黄河(webから)

前川佐美雄の歌で、「埴(はに)のにこつち」に注釈すると、埴とは、きめの細かい黄赤色の粘土のことで「はにつち」の略。「にこ」は語素で、やわらかい、こまかいの意を表す。つまり「埴(はに)のにこつち」は、「埴」を二重に形容した言葉である。
宮 柊二は、1939年に日本製鐵入社したが途中で兵役に応召し、中国山西省で足掛け5年を兵士として過ごした。戦中に渡河する様子が初めの歌にリアルに詠まれている。黄河のほとりの深い山中の村での戦闘であった。


  朝夕(あさよひ)に山下川の水の音清(さや)けきかなと
  聞きて住むらむ            松村英一


  川岸の埴(はに)のにこつちに杭打てば空くもり来て梅が
  香ぞする              前川佐美雄


  河か船かいづれおのれが身の業のながれもやまぬ変身
  (メタモルフオオズ)          斎藤 史


  人の名を忘れ川の名を忘れざる 夏野を貫きて遠く光れり
                     斎藤 史
  軍(ぐん)衣(い)袴(こ)も銃(つつ)も劍(つるぎ)も差上げて
  暁渉る河の名を知らず         宮 柊二


  谷川に下(くだ)りきたれば岩の間の砂ぬれて蝉のなきがらを置く
                     宮 柊二
  川床に泉の見えて新しき水うごきつつ砂たえず舞ふ
                     宮 柊二