原爆の記憶(4/9)
救ひがたき人間の智がうみし死の灰といふ言葉かなしく
平井乙麿
死の灰をまじへてふるてふ梅雨のあめに濡るる草木と
われと悲しき 尾上柴舟
無慚なる死の灰降らす天かなと首のべて池の亀が言ひたり
前川佐美雄
原爆をのろふ言葉の絶えしとき夜ふけの街の口笛もかなし
前川佐美雄
終戦といひ敗戦と呼びいづれともわれに百余の友 原爆死す
草野源一郎
モノクロの原子野に人の形なし息子(こ)に伝ひくるや
死の静けさが 本渡真木子
アトミック・ボムの爆心地点にてはだかで石鹸剥いている夜
穂村 弘
死の灰とは、核爆弾の爆発や原子炉内の核分裂によって生じた放射性微粒子の俗称で、広域な放射能汚染を引き起こす原因になる。
前川佐美雄の視点は独特である。わざとリアリティを消しているようだ。
草野源一郎の結句は、「原爆死」という名詞を使用している。「原爆に死す」ではない。
[参考] Web:http://www.geocities.jp/misono212/page009.html によると、
広島型原子爆弾は、「リトル・ボーイ」と呼ばれ、核分裂物質としてウラン235が使われた。
このウラン235は臨界量より少ない量の二つの固まりに分けられ 一方の固まりが火薬の爆発力によって他の一方の固まりにぶつかり 一瞬のうちに臨界量以上になるように造られた(ガン・バレル方式)。 臨界量以上に達すると、きわめて短い時間に核分裂が連続して起こり 火薬の爆発では及びもつかない巨大なエネルギーが一度に放出された。
長崎型は「ファット・マン」と呼ばれ 核分裂物質としてプルトニウム239が使われていた。