天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

山河生動 (13/13)

『飯田龍太全句集』角川学芸出版

 最後に、露の句が大変に目立つことを言っておかねばならない。季語としての露を入れ
た句は、全3347句のうち69句、2・1%になる。
その背景について、廣瀬直人や杉橋陽一は、「龍太にとって露は、叙情などというよりも、
もっとその生き方とでも言っていい精神の歩みを託してきた季語の一つではなかろうか。」
「露は、龍太の住む村に特有の秋の空気といってもいいのだ。」などと分析している。
 三人の兄たちを戦争や病で失い、自身肋骨カリエスで勉学を断念、郷里に帰って家業を
継いだが、本意ではなかった。子供をもうけても次女を小児麻痺で亡くした龍太にとって
は、一茶の句
  露の世は露の世ながらさりながら     一茶
と同様な思いがあったのではないか。郷里境川村での自らの境涯を「露」をモチーフとし
て表現したのである。
  露の川ときに嘆きの音もあらむ      『山の影』