天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

道づくし(10/11)

『わが父塚本邦雄』(白水社)

次に塚本邦雄の場合。負の諸概念を短歌に詠むことで現代前衛短歌を先導した彼は、道の取り入れ方も独特である。


  踐(ふ)みゆかむこの道はただひとすぢに遠つみ祖とこころ通へる
                    『初學歴然』 
  抜道の間道、縞の間道と分きがたし喜多耳鼻科夕映
                      『献身』
  迷路ゆく媚薬賣りらも榲桴(まるめろ)の果(み)を舐めてまた
  睡りにかへり            『水葬物語』


  ゆきかへる少女らの瞳にくちびるに風と光の死ぬ環状路
                    『水葬物語』
  水道管埋めし地の創なまなまと續けりわれの部屋の下まで
              『装飾樂句(カデンツア)』
  眼に見えぬもの轢かれたる滑走路 花抱へたる老婆よぎりし
              『装飾樂句(カデンツア)』
  横斷歩道(ゼブラゾーン)の死せる縞馬踏みわたりすべて他者
  ちりぢりの魂            『緑色研究』


  紅梅を伐りてきさらぎさなきだに衆道死ぬことを見失ひたり
                     『星餐圖』
  極道と呼ぶ華麗なる悪名にわれははるけし帷子の辻
                    『天變の書』
  水無月の花さりげなき空色のあやふし動く歩道に酔ひて
                      『波瀾』