犬を詠う(5/12)
肉とししむらが打ちあえる音味わいており闘う犬に
阿木津 英
叱られておりたる犬が庭隅の闇に食器をずらす音する
村山千栄子
じたばた 廊下を犬がやって来て ドアを鼻で押しあける
おや、こんにちは 前田 透
昨夜(よべ)の雨の車前草(おほばこ)の葉に溜りしを脚病む犬が
舐めて去(ゆ)きけり 梅津英世
冬至さらにつのる荒蕪をよろこべば杖曳きいづる父とその犬
安永蕗子
犬はここに今死にゆかん遠き坂の傾斜がふしぎに美しくして
真鍋美恵子
犬の太郎飯粒つけて馴寄りくる夢覚めて何といふ生のはかなさ
山本友一
一首目の「ししむら」は肉の塊の文語的表現。闘犬で二つの肉塊が打ち合う音を楽しんでいるという。闘犬の楽しみ方を詠って特色あり。
村山千栄子の歌では、犬の気持がわかるような気がする。梅津英世の犬に哀れさを感じる。
真鍋美恵子は飼い犬の死を見届けているのだろうか。犬の死を荘厳にしている。
右上の画像に挙げたのはボーダー・コリーで、イギリス原産の犬種。「ボーダー」の名称は、原産地がイングランドとスコットランドやウェールズの国境地域であることに由来する。研究によると全犬種で最も知能が高いとされる。