病を詠む(5/12)
手にあまる抜髪かなし四日経て見しらぬ尼が鏡にありぬ
畑 和子
蛍(ほうたる)よどうすればいい 病む汝を取り戻すべくわれは点らむ
池田はるみ
雨脚の去りたれば地の匂ひ湧く病むもの置きて帰るうつしみ
佐藤通雅
掃き寄せて掃き寄せて椋の葉よ昨日まで知らなかった病気のことは
河野裕子
しつかりと静かに立つてゐたいのだ採血検査の順待つ時も
河野裕子
青空の雲はそらいろ もうこれつきりにして欲しい身を病むことは
河野裕子
病む人は病者の時間のなかにあれば白梅のかなたに透く昼の月
永田和宏
畑和子の歌は驚愕に満ちている。池田はるみの歌は悲しく切ない。河野裕子の三首は、病気であることを知った当時のもの。この後、凄絶な病との闘いが詠まれる。夫の永田和宏は、病気の妻・河野裕子を静かに見守っている。まだ死を予感していない時期の作であろう。