天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

病を詠む(8/12)

白鳥

  明けゆけど人の許せば起きもせず朝の夢みる病おもしろ
                       尾上柴舟
  間歇の意識に〈すまぬ〉と繰り返す夫の手足のはやままならず
                       筒井早苗
  ふとんの上でおかゆをすするあと何度なおる病にかかれるだろう
                       斎藤斎藤
  どの病ひで死なせますかと訊ねゐる使ひのものが必ずをらん
                       稲葉京子
  うつせみの病ひ癒えたる身は越えて 白鳥の背に、夢に大和を
                       成瀬 有
  氷片にふるるがごとくめざめたり患(や)むこと神にえらばれたるや
                       小中英之
  病むことも不覚のひとつ夏柑の皮しばらくは匂えるゆうべ
                       小中英之


稲葉京子の歌は、「死なせますか」「使ひのもの」という語句が原因で不気味であり、場面が不可解。人の死を支配する神の世界を想像する。
筒井早苗の歌の夫の気持が痛いほど分かる気がする。
歌誌「白鳥」主宰であった成瀬有は、2012年11月に収縮性心膜炎により亡くなった。
享年70。
小中英之は、若くから結核などの病に苦しみ、死と背中合わせの日常の中で作歌を続けた。2001年11月、虚血性心不全にて死去。