小池光の短歌―ユーモア(14/26)
◆「われ」の描写(客観視・見立て)4/4
すがすがとわれは居るべし雪ふる夜(よる)再婚話のひとつとてなく
『梨の花』
「屋台風焼きそば」昼に食ひたれば腹はふくれてとりとめもなし
老眼鏡かけて週刊文春のマンガ立ち読みす益田ミリの
一度のみ食ひしことあり猪(いのしし)鍋(なべ)ひたすらに肉かたかりしのみ
わが半生かへり見すれば自転車泥棒いちどもせずに来たりしあはれ
柏餅つるりとひとつ腹に入れうたの清書のつくえに向かふ
ハイヒール高々あゆむ女性みて「二階建て」とぞわれはおもへる
わが庭に咲きし九(ここの)つのチュリップのひとつひとつのあたまを撫づる
「後妻業」とふおそろしき職種ありその小説をたのしみ読みつ
蓮田駅に三分遅れて到着の電車の中よりわれ出で来たり
「いろはす」の水をごくりと飲み干して短歌講座に出でゆくわれは
文具用鋏をもちて伸びきたる白(しろ)毛(げ)まじりの鼻毛を剪(き)るも