憂い・鬱(3/3)
対岸の鬱をささうる一本のかがやける樹をわれは買いたし
香川 進
*具体的な樹の名前は分からなくても、作者の心情は分かる気がする、
たをやかに蔓薔薇の黄はあふれきぬ寒き立夏のわが鬱をこえて
西田泰枝
西空に茜さすころ鬱まとふおのれ引き立て水買ひにゆく
雨宮雅子
憂鬱(メランコリー)の言葉呑みたるくちなはの苦しむならむ月下に垂れて
春日井 建
*月の夜に蛇を見かけたところからの発想であろうか。作者の心境をくちなわに置き換えて詠んだもの。
憂鬱なるわれは欅の巨人となり来るクルマ来るクルマひっくりかえす
渡辺松男
*次々に来るクルマに苛立っているのだ。
鬱鬱と空身(からみ)で行けば何という宿根草か発芽している
沖 ななも
*空身: 荷物や連れのない状態。
宿根草: 冬に地上部は枯れて地下部が休眠状態で越冬し、春に再び生長・開花する多年草。