衣のうたー袖・袂・襟(8/11)
陰くらき軒のした荻おと更(ふけ)て月待袖(つきまつそで)にあきかぜぞ吹く
冷泉政為
*上句、特に「おと更(ふけ)て」の意味が不可解。冷泉政為は室町後期の歌人・公卿。下冷泉家。
貝拾ふ少女が袖のうらみれば沖にもかすむ朱のそほぶね
千種有功
*そほぶね: そほ船とは「そほ…赤い粘土」で赤く塗られた船のこと。
袖のうへに人の涙のこぼるるはわがなくよりも悲しかりけり
香川景樹
*「袖のうへに」は作者の袖の上に、と解釈すると情が深くなるか。
ふりそでの雪輪に雪のけはひすや橋のかなたにかへりみぬ人
与謝野晶子
*雪(ゆき)輪(わ): 文様または紋所の名。雪片の六角形をまるくかたどって図案化したもの。
わが袖も春のひかりの帰らじや牡丹剪(き)らせて鼓に添へば
山川登美子
*「私にも、もう一度乙女の頃の輝きが戻ってこないだろうか。牡丹の花を剪って、むかしお稽古事で習った鼓のそばに添えたならば・・・。」
亡き子来て袖ひるがへしこぐとおもふ月白き夜の庭のブランコ
五島美代子
わが袖に掩ひややらむかれがれの野花はなれぬ蝶のましろき
増田まさ子