音を詠む(5/6)
かへり来て蝙蝠傘をたたむときいんきな音は壁のすそより
前川佐美雄
八月のまひる音なき刻(とき)ありて瀑布のごとくかがやく階段
真鍋美恵子
めざめしはなま暖き冬(ふゆ)夜(よ)にてとめどなく海の湧(わ)く音ぞする
佐藤佐太郎
立ちつづく背戸の木原をとよもして遠くより風の寄する音する
石井直三郎
奥まりし家のいづこか鈍(にぶ)きおと時計の動く音のして居り
植松寿樹
石川島の鋲(びやう)打(う)ちの音を永代の鉄骨橋梁ひびきぞかへす
橋本徳寿
*石川島: 東京都中央区南東部,隅田川河口の工業地区。1853年,水戸藩が造船所を開設し,これが石川島播磨重工業 の工場に発展した。(百科事典による)
街行けば水の流るる音きこゆいまだ消えのこる雪のしたより
小泉苳三