絵画を詠む(3/6)
この子供に絵を描くを禁ぜよ大き紙にただふかしぎの星を描くゆゑ
葛原妙子
うすぐらき壁にみえつつ聾画人ゴヤの肖像に浮腫少しありと覚ゆ
葛原妙子
*ゴヤはスペインの画家。46歳のとき、聴覚を失った。それが幻想豊かな名品を生む要因となった。
マリヤの胸にくれなゐの乳頭を點じたるかなしみふかき繪を去りかねつ
葛原妙子
彦根屏風、方寸黄金の切手にて禿(かぶろ)のゐたり遊び女(め)ゐたり
葛原妙子
*彦根屏風は、江戸時代初期に描かれた六曲一隻の風俗画。描かれた場面は近世初期、京都六条柳町の遊里。彦根屏風の名は、彦根藩井伊家に伝わったことによるらしい。国宝に指定されている。
禿: 童女の髪を結わずに短く切りそろえ,かぶせたように見える髪形。のち遊廓の妓楼で使われる少女をいい,禿の修業を終えてのち遊女となった。(百科事典による)
ジョットの壁畫の罅(ひび)をつたひゆく畫の鼠に小さき齒あらむ
葛原妙子
*ジョット: イタリア−ルネサンス初期の画家・建築家。絵画をゴシック建築の従属性から解放し,自由で真に造形的な空間を構成した点に功績がある。
悲しみの住まふ我家も或る時は絵の如く見て我は近づく
高安国世
モヂリアニの樺色の首傾く と 一瞬ローソク ぼあっとまたたく
加藤克己
油絵を描きたかりき宵に見し人恋ふ夢のあかるき裸像
春日井建