感情を詠むー「忍ぶ」 (3/4)
葉がくれに散りとどまれる花のみぞ忍びし人にあふ心地する
なさけありし昔のみなほ忍ばれて存(ながら)へま憂(う)き世にもあるかな
*ま憂き: 助動詞「まうし」の連体形「まうき」 《希望しない意を表す》…たくない。…するのがつらい。(辞書による)
今はただしのぶ心ぞつつまれぬなげかば人や思ひ知るとて
かくばかり憂き世の中を忍びても待つべきことの末にあるかは
千載集・登蓮
思ふこと忍ぶにいとど添ふものはかずならぬ身の嘆きなりけり
千載集・殷富門院大輔
*いとど: ますます。いよいよ。いっそう。
思ふをもわするる人はさもあらばあれ憂きを忍ばぬ心ともがな
千載集・源 有房
*ともがな: …としたいものだ。…であってほしい。
寂しさにうき世をかへて忍ばずばひとり聞くべき松の風かは
千載集・寂蓮
*「俗世間での生活を、出家という孤独と引き換えに棄てて、ひたすら寂しさに堪えて生きてきた。だからこそ、松の梢を吹きすぎる風の音を、たった独りで聞くことにも耐え得るのだ。」
厭ひてもなほ忍ばるる我が身かなふたたび来べきこの世ならねば
千載集・藤原季通
みこもりに言はでふるやの忍草しのぶとだにも知らせてしがな
千載集・藤原基俊
*言はでふるやの忍草: 「岩手の古屋に生える忍ぶ草」を掛けている。
「思いを胸に秘め、口には出さずに過ごしてきた。私はまるで陸奥の岩手の古屋に生える忍ぶ草だな。せめて、怺えているってことだけでも、あの人に知らせたいよ。」