命の歌(16/17)
海に生(あ)れまた還りゆく生命ぞと青藍の雫(しづく) 掌に置く
比嘉美智子
*掌に置いた青藍の雫に命を思ったのだ。
二十五歳の母のからだにふと点る春三月のいのちなりけり
阿木津 英
*二十五歳の女性が三月に妊娠したことを歌にしたようだ。
そこまでと思いし命延びてゆくときにうろたう人の子われは
岡部圭一郎
たまきはる命をひたすら奏でゐる寂しき楽器を人とし呼べり
浜 守
それはもう長き月日のたちたれどいのち盗りしは一枚の紙
大和類子
*「一枚の紙」とは、召集令状のことであろう。
あらためていま一度とも言ひがたき一点鐘に似るいのちかな
中原綾子
*一度っきりの命であることを表現したもの。 一点鐘: ① 一時間、② 午前・午後の第一時。
おのずからいのちのともしび消えゆくを待つごとくにも深く瞳を閉ず
渡辺順三
無灯火の峡の夜ふけて月ながら降る雪吾の命きよめむ
三浦 武
*三浦武は登山でもしたのだろうか、あるいは奥深い山里でのことか。周囲に灯火はなく、月が出ているのに雪が降っている。その情景に命が清められる思いをした。