命の歌(17/17)
限りなくいのちに沁むとひき寄せし さくら香あはしとらへどもなく
小此木とく子
*桜の花の匂いを嗅いで、その香りが命に沁みることを想像したのだ。
崩れくるこころに耐へていちにちを生きつぎてゆくいのちは長し
王藤内雅子
生きがたき命を今のつゆとしてひかり湛ふる露草の花
小野興二郎
花咲かばいのちと思へ歌あらば道とし念(おも)へわが天はあり
小野興二郎
軌道よりそれてただよふひとひらの命なりけり さらば惑星
小野興二郎
*小野興二郎の一首目は、古典和歌の発想の域を出ない。対して三首目は、自分が死んでゆくときのことを想像した辞世とも思える歌。
烏賊を裂くごとく腕(かひな)の痛む夜を命捨てよとたれか囁く
小柳素子
*腕の痛みは、死んだ方がマシと感じるほどひどかったのだろうか。
ゆゑ知らず己がいのちを寂しめる幼きわれを今にたづさふ
栗原孝子
ひとつ命のはかなごとかや池の面に顔をうつしてまばたいてみる
加藤克己
*栗原孝子と加藤克己は、それぞれ自分の命を客観視して詠んでいる。