天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

別れを詠む(8/10)

  離れ行く車窓に別れの手を振りてその手をしまうところに惑う

                      武市房子

  迢空にとわの別れを告げて帰るコツコツコツコツ吉野秀雄と二人の歩み

                      加藤克己

*釈超空は昭和28年に亡くなった。作者は吉野秀雄と共に、葬儀に出席したのだろう。ちなみに吉野秀雄は昭和42年に、加藤克己は平成22年にそれぞれ亡くなった。

 

  ワンタッチの傘を開きて歩み出す更なる飛翔とならむ別れか

                      長野燁子

  愛別離別生別死別分別のなきわたくしを標的とせり

                      李 正子

*下句の主語は何か? 「愛別離別生別死別」であろう。こうした別れを作者は経験したのだ。例えば、結婚し2人の男児をもうけたのち離婚している。

 

  春愁のことばに託しこの春もまた離別する人を送りぬ

                      永廣禎夫

  別れぎは夫が触れにし我が乳房夜の電車にみづみづとせり

                     秋山佐和子

*夫は単身赴任であったか。

 

  夫婦の碑建つを待たずに逝き給へる奥様の無念只管(ひたすら)思ふ

                      神作光一

*夫に先立って死ぬことになる奥さんの無念、であろう。「夫婦の碑」とは、墓碑ではなく、夫婦の歌を刻んだ歌碑と思いたい。

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ワンタッチの傘