旅を詠む(3/6)
現身(うつせみ)のはてなき旅の心にてセエヌに雨の降るを見たりし
道に死ぬる馬は、仏になりにけり。行きとどまらむ旅ならなくに
釈 迢空
*新しく出来た馬頭観音像を見ての感想。次の歌も有名。
人も馬も道ゆきつかれ死ににけり。旅寝かさなるほどのかそけさ
旅なれば一夜(いちや)の夢もはかなきを木(こ)がくれにして月没(い)りやすき
前川佐美雄
出稼ぎといひつつ旅に発(た)ちてゆくこの諧謔(かいぎやく)もさびしきものを
木俣 修
*確かに出稼ぎの旅は寂しい。
海中に入りゆく石の階ありて夏の旅つひの行方しらずも
仕残しの仕事を置きて旅に来つ落ち鮎の身を身に沁みて食う
*旅に来たことと落ち鮎の身とが絶妙に呼応している。