天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

旅を詠む(3/6)

  現身(うつせみ)のはてなき旅の心にてセエヌに雨の降るを見たりし

                      斎藤茂吉

  道に死ぬる馬は、仏になりにけり。行きとどまらむ旅ならなくに

                      釈 迢空

*新しく出来た馬頭観音像を見ての感想。次の歌も有名。

  人も馬も道ゆきつかれ死ににけり。旅寝かさなるほどのかそけさ

 

  旅なれば一夜(いちや)の夢もはかなきを木(こ)がくれにして月没(い)りやすき

                     前川佐美雄

  出稼ぎといひつつ旅に発(た)ちてゆくこの諧謔(かいぎやく)もさびしきものを

                      木俣 修

*確かに出稼ぎの旅は寂しい。

 

  海中に入りゆく石の階ありて夏の旅つひの行方しらずも

                      安永蕗子

  仕残しの仕事を置きて旅に来つ落ち鮎の身を身に沁みて食う

                     佐佐木幸綱

*旅に来たことと落ち鮎の身とが絶妙に呼応している。

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セエヌ河