姉、妹を詠む(6/7)
梅雨寒の厨にひとりパンを焼く妹のこと思いていしが
松本みよ
夕空はしずかに反りて自転車の鍵を外すとしゃがむ妹
半身を花輔に差し入れほんたうは蛍に生まれたかつたいもうと
大口玲子
*花輔: 花を売る店。
どうにもならない恋は一日お休みにして/ 妹と着るトンボのゆかた
林 あまり
身体に死を嵌め込まれたるいもうとのほほに紅刷き唇にべにさす
小高 賢
*妹に死化粧をほどこす情景。
年若き姑に仕へし妹は躰つかれて病みやすくゐき
下田徳恵
*姑: 夫の母。
たった一人のいもうとが細く泣く家に水藻となりし声のまつわり
佐伯裕子
*下句からは、家で泣く妹に冷たくまといつくように話しかけている姉の姿が連想される。