歌集『夜のあすなろ』(6/6)
*日本やヨーロッパを旅する懐かしい歌枕
夕ぐれにまだいとまある由布島(ゆぶじま)のみづにひたりて牛らいこへる
無量寺の庭のつつじのはなの蜜こぞりて吸ひき学童われら
日あたれる入笠山(にふかさやま)のやま肌にわれはも立ちて呼びし谺(こだま)よ
矢がすりの母は佇ちゐつ中野なる桃園町に五叉路はありて
三月の雪ふるパリに震へつつノルマンディーへ行くバスに乗る
風すさぶモンサンミシェルの回廊を息子と巡るフード押さへて
うつすらと日のさしそむる船上に琵琶湖周航の歌くちずさむ
山すその伊那の湧水すみとほり抜きし漬菜を母とあらひき
去りがたく十数分をながめをり青(せい)岸(がん)渡寺(とじ)に滝かたむかず
七草のかゆを炊きをりふるさとの鳩吹山(はとぶきやま)に雪ふるころか
*感動する内容
家族・知人や歌枕(旅)を中心とした日常詠なのだが、例えば、
作者・通代さんとご主人の生前・死後の思い出の歌を抜き出して鑑賞すると、
涙を禁じ得ないほど感動させられる。