赤とんぼ
短歌は黙示録である。いいかげん第二芸術と蔑まれる自我の詩から抜け出せ。これが塚本邦雄の主張であった。
まったく無目的に湯河原に行った。千歳川沿いに歩いた。赤とんぼがかなりの数湧き出していた。ところどころはや彼岸花が咲いていた。五所神社には樹齢八百年の銀杏、六百年の楠がある。
瀬を速み泡立つ川や赤とんぼ
川に立つ早瀬の風や赤とんぼ
せせらぎの消ゆる風向き赤とんぼ
湯河原や落鮎釣りの竿細き
激つ瀬に囮放つや赤とんぼ
川筋の空を行き交ふ赤とんぼ
湯河原の川筋たどる赤とんぼ
いつかうに落鮎掛かる気配なく
打水やわが影消ゆる裏通り
大いなる忠魂碑より黒揚羽
樫の木の木陰の椅子や滝つ風
大楠の幹に寄り付く秋の蝶
見てをれどいつかうに掛かる気配なし囮の鮎は早瀬に耐ふる
象の足束ねたるがに根を張れり樹齢六百年の楠の木
忘れていたが、今朝の産経歌壇・小島ゆかり選に、長良川で詠んだ次の一首が入っていた。
篝火の炎ふくらむ時に見ゆ魚吐き出す鵜の長き首