天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

?と!の新春詠(短歌)

角川「短歌」新年号・新春五十歌人競詠五百首より。日頃学んでいる歌人の巻頭歌のみ取り出してみた。新春詠といっても正月に関る情景をめでたく詠んでいるわけではない。


A そそり立つ黄金(くがね)の木立。夜半すぎし月のしづくに
  ぬれて かがやく            岡野弘彦
B あごひげの白を揃へてゆつくりと鋏が移る 聴く耳のため
                      岡井 隆
C 思ひ絶えにしことたとふれば烏瓜ただ一つ空にありて褪せゆく
                      馬場あき子
D 黒潮といふ急流のほとりにて花々ゆるる水仙岬(すいせんみさき)         
                      高野公彦
E うつくしき三人姉妹のものがたり雪ふるときにおもほゆるかも
                      小池 光

 作者それぞれの特徴が感じられて興味深い。岡野の釈 迢空ゆずりの句読点法と抒情、岡井の前衛的措辞、馬場の古典調の抒情、高野の場合は、この歌では顕著な特徴は出ていないが、北原白秋系のゆたかな韻律、小池のこの歌では、結句を茂吉調というか万葉調で納める点に特徴が仄見える。上の句が現代的な言い回しなのにである。意味をとろうとする時、もっともわかりにくいのは、岡井の歌であろう。表題「庄司紗矢香を聴きに行った夜」を見れば、歌の状況が理解できる。次は、小池の歌だが、これは読者に文学の知識があれば、谷崎潤一郎の「細雪」であろうことは容易に想像がつく。他の歌は、特段の難しさもなく楽しめよう。