天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

前登志夫と三枝昂之

 昨日、インターネットで注文していた二冊の本が届いた。短歌研究文庫『前登志夫歌集』と三枝昂之『昭和短歌の精神史』(本阿弥書店)である。前登志夫のそれぞれの歌集はすでに持っているが、全集的にコンパクトにまとめた文庫本は、持ち運びに便利だし、全体を俯瞰できるのがありがたい。但し、この本は全集ではなく、「青童子」以外の歌集は抄録である。抄録とはいえ、前登志夫本人が編集したはず。それぞれから冒頭歌をとってみよう。

  かなしみは明るさゆゑにきたりけり一本の樹の翳らひにけり
                        『子午線の繭』
  水底に赤岩敷ける恋ほしめば丹生川上に注ぎゆく水
                        『霊異記』
  紀の海にさかなを欲りて吉野より河づたひ来し喝食のこと
                        『縄文紀』
  つつしみて魂寄り合へばたかはらの風光るなり萩ひとむらに
                        『樹下集』
  国原に虹かかる日よ鹿のごと翁さびつつ山を下りぬ
                        『鳥獣蟲魚』
  夜となりて雨降る山かくらやみに脚を伸ばせり川となるまで
                        『青童子
  夜の庭の木斛の木に啼くよだか闇蒼くしてわたくし見えず
                        『流轉』
  百合峠越え来しまひるどの地図もその空間をいまだに知らず
                        『鳥総立』


 『昭和短歌の精神史』の方は、通勤電車の中で読み始めたが、文章はやさしく大変読みやすい。十年間、調べ書き溜めた結果を一本にまとめた労作。芸術選奨文部科学大臣賞、斉藤茂吉短歌文学賞、やましな文学賞 などを受賞した名著である。引用部分が処々にでてくるが、筆者の主張が明快なのであまり気にならない。八月初めに短歌人の夏季集会で、三枝昂之の講演があるので、それまでには読了したい。講演内容は、この本と関係ないかもしれないが。