天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

塚本邦雄と椿(1)

鎌倉杉本寺にて

 歌人塚本邦雄は、ことのほか椿を好み、家の庭に植えて観賞した。序数歌集意外に間奏歌集がいくつもあるので、全歌集を調べてみるのは大変だが、全序数歌集と他の抄録歌集に目を通すと、87首見つかった。特に還暦をすぎてから、よく詠んでいる。庭の椿をゆったりと愛で、それを歌に織り込む姿が想われる。
「馬」や「山川呉服店」の歌について話題にした文章はよく見かけるが、「椿」の歌については、まだ無いのではないか。以下に還暦までの序数歌集に載っていた歌を一首づつ紹介しておく。


  沈滞の吾にまぶしく反りかへる藪椿なれや今に視てゐよ
                     『初学歴然』
  わが出でし後の真夏の劇場に椿姫咳きつづけて死なむ
                     『驟雨修辞学』
  椿ひしひしとみのりて夜の園に立つ おそらくは死に倦める死者
                     『水銀傳説』
  一人(いちにん)の刺客を措きてえらぶべき愛なくば 水の底の椿
                     『感幻樂』
  寒の市に椿と卵今は昔序破急の破のかなしみに満ち
                     『星餐図』
  花婿の位相空間 海石榴市(つばいち)の八十(やそ)のちまたに雪
  ふれるらし              『閑雅空間』