食う・飲むを詠む(4/6)
食ひなづむ玉蜀黍(たうもろこし)粉(こ)やうやくに減りて今年の秋も深めり
柴生田 稔
み枕べ去らむとするを押しとどめ飯食ふさまを見よといはしぬ
岩津資雄
磯山の香にたつ松露を食はむとす北京放還のとも東京飢餓のわれ
坪野哲久
秋分のおはぎを食へば悲しかりけりわが佛なべて満州の土
山本友一
もの吐ける猫にむかひて蜥蜴など食ふから馬鹿と言ふ声聞ゆ
山本友一
何ならず何かうまきもの食はしめと寄りそふものを率て歩むなり
山本友一
ささやかに食ひつつ交はす三言(みこと)またふた言つひに二人となりぬ
山本友一
岩津資雄は、昭和時代~成時代の歌人、日本文学者で早稲田大学教授だった。早稲田大学在学中から窪田空穂に師事した。
坪野哲久の歌: 松露とは、キノコの一種。春および秋に、二針葉マツ属の樹林で見出される。その形態は、歪んだ塊状をなし、ひげ根状の菌糸束が表面にまといついている。
坪野哲久は、プロレタリア歌人として出発し、大胆な口語自由律短歌を発表するようになった。戦時中は、治安維持法違反で検挙されたこともあった。妻は歌人の山田あき。
山本友一は、福島県出身。松村英一に師事して、香川進らと「地中海」を創刊。満州での生活や引き揚げ体験をよんだ重厚な歌風に特色があった。