感情を詠むー「悲し」(3/3)
鳥辺山思ひやるこそ悲しけれ独りや苔の下にくちなむ
千載集・藤原成範
*鳥辺山: 京都東山にある墓地、葬送の地。歌には詞書「母の二位みまかりてのち、
よみ侍りける」がある。つまり歌の下句は、母のことを思いやっている。
もろともに眺めながめて秋の月ひとりにならむことぞ悲しき
千載集・西行
*西住は、西行が出家する以前からの友人であり、出家後も同行と呼び合った。
この歌は、西住上人が病にかかり、先が無いことを知って詠んだもの。西行は、
高野から都の西住の庵まで上って来てその臨終を看取った、という。
初瀬山いりあひの鐘を聞くたびにむかしの遠くなるぞ悲しき
千載集・藤原有家
*「初瀬山に響く夕暮れ時の鐘の音を聞くたびに、昔が遠ざかっていくように思われる
のが悲しい。」 初瀬山は、奈良県桜井市初瀬町にある山で長谷寺がある。
和歌の浦に月の出しほのさすままによる鳴く鶴の声ぞかなしき
新古今集・慈円
津の国の長柄の橋の橋柱ふりぬる身こそ悲しかりけれ
新勅撰集・読人しらず
*長柄(ながら)の橋: 大阪市大淀区を流れていた長柄川に架けられていた橋。
歌枕として多くの和歌に詠まれた。この歌では、橋柱までが「ふりぬる」の
序詞になっている。
夕暮はかならず人をこひなれて日もかたぶけばすでに悲しき
玉葉集・遊義門院
衣手(ころもで)に取縋(とりすが)る子の泣きながら親にひかれて行くがかなしき
大隈言道
今日もまた云はであれよと思ふこと妻の云ひいでて悲しき日かな
尾上柴舟