天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー眉(1/2)

 眉は、まぶたの上部,ほぼ眼窩上縁に沿って弓形に密集してはえる毛の集合を差す。「まよ」は「まゆ」の古形。

  眉のごと雲居に見ゆる阿波の山懸けて漕ぐ舟泊り知らずも
                    万葉集・舟王
*「眉のようにかかった雲の向こうに見える阿波の山々。そこに向かって漕いでいく舟が見える。どこに泊まるか分からない。」徳島県眉山を詠みこんだもの。ただし眉山という名称は、後世になってできたらしい。

  思はぬに至らば妹(いも)が嬉(うれ)しみと笑(ゑ)まむ眉引(まよびき)思ほゆるかも
                  万葉集・作者未詳
*「思いもかけないところへ、ひょっこり私が行ったな、あの娘が嬉しいわと、にっこり笑う、その時の眉の有様が 浮かんでくるよ。」 正述心緒の恋歌である。

  我妹子(わぎもこ)がひたひの髪の乱れよりたはきまゆねを見しが恋ひしき
                      津守国基
津守国基は、平安時代後期の貴族・神官・歌人。当時としては珍しく『万葉集』を重んじた。この歌にもその影響が感じられる。

  ちちのみの父に似たりと人が云ひし我が眉の毛も白くなりたり
                      天田愚庵
*天田愚庵は、幕末から明治にかけての武士、歌人で、漢詩や和歌に優れ、俳人正岡子規と交流があった。

  茅蜩(かなかな)の啼きづるきけば眉引の月の光し白みたるらし
                      北原白秋
*眉引の月: 眉墨でかいた眉のような形の月。なお「眉引の」は「よこ」にかかる枕詞にもなる。

  さきだちて 僧が ささぐる ともしび に くしき ほとけ の まゆ
   あらは なり             会津八一
  六十八歳にならし給へるわが母は何を思ひてか眉も落としぬ
                     前川佐美雄
  巫女(みこ)の眉地霊にゆるる夜のふけに鎮花(はなしずめ)するわが祭あり
                      鵡川忠一
*鎮花祭は、桜の花の散るころ疫病が流行しないようにと疫癘(えきれい)を鎮めるまつり。「はなしずめのまつり」ともいう。

  雪はまひるの眉かざらむにひとが傘さすならわれも傘をささうよ
                      塚本邦雄

f:id:amanokakeru:20200114000135j:plain

徳島県眉山 (webから)