天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

衣のうたー袖・袂・襟(4/11)

  契りきなかたみに袖をしぼりつつすゑの松山なみこさじとは
                 後拾遺集清原元輔
*「約束したのにね、お互いに泣いて涙に濡れた着物の袖を絞りながら。末の松山を波が越すことなんてあり得ないように、決して心変わりはしないと。」

  恨みわびほさぬ袖だにあるものを恋にくちなむ名こそ惜しけれ
                   後拾遺集・相模
*「あなたの冷たさを恨み、流す涙で乾くひまさえもない袖なのに、この恋のために、わたしの名が落ちてしまうのは、なんとも口惜しいことです。」

  音にきく高師の浦のあだなみはかけじや袖のぬれもこそすれ
                  金葉集・一宮記伊
*「噂に名高い高師の浜の寄せては返す波のように、移り気なあなたに気をつけなければ私の着物の袖を濡らす事になりそうです。」


  あはればむと思ふ心はひろけれどはぐくむ袖のせばくもあるかな
                    金葉集・仁覚
  つつめども涙に袖のあらはれて恋すと人にしられぬるかな
                  千載集・源 雅定
  おもひかね夢に見ゆやとかへさずば裏さへ袖は濡らさざらまし
                  千載集・源 頼政
  見せばやな雄島の蜑(あま)の袖だにも濡れにぞぬれし色はかはらず
                千載集・殷副門院大輔
*「あなたに見せたいものです。雄島の漁師の袖でさえ、波をかぶって濡れに濡れても色は変わらないというのに。(私は涙を流しすぎて涙を拭く袖の色が変わってしまいました)」

  伊勢島やいちしの浦のあまだにもかづかぬ袖は濡るるものかは
                    千載集・道因
*いちしの浦:三重県一志郡香良州(からす)町付近の海岸。歌枕。  

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高師の浦