絵を買つて絵を売つて暮らしのたつ話縁なき事は何にても楽し
清水房雄
虹のごとよみがへりくる画のなかに妹が姉の乳首をつまむ
日高尭子
みづからの呼び醒ましたる潮ざゐにゆれ出す壁画のなかの破船も
大西民子
*「潮ざゐ」は、作者の過去の記憶の暗喩であろう。思い出せば心がさわだつ記憶なのだ。
画の魚のむきむきにして遊べる中のひとつの暗く沈みゆく
高橋則子
表情をもどすことなき絵のなかのふりむきざまといふ心の無
今野寿美
絵の中に踊る男は左足あげつつ四百年またたくまなり
佐佐木幸綱
*四百年前に描かれた絵を見ての感想。
自画像を書き損じたる紙の上にわれは子と食う菓子を分けおり
浜田康敬