天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

恋(5/13)

  敷きしのぶ床だにたへぬ涙にも恋はくちせぬものにぞありける

                     千載集・藤原俊成

*「敷きしのぶの床は、大量の涙には耐えきれず朽ちてしまうが、恋は違っていつまでも涙で朽ちないものであったよ。」

 

  厭はるるその由縁(ゆかり)にていかなれば恋は我が身を離れざるらむ

                     千載集・源 仲頼

  恋といへばよのつねのとや思ふらむ今朝の心はたぐひだになし

                    新勅撰集・敦道親王

*たぐひだになし: 他にくらべるものがないほど、その程度がはなはだしい。

 

  きのふまで何とはなくて思ふことけふさだまりぬ恋のひとつに

                           契沖

  あめつちにただ二人なる恋もせむひがみて怖(お)ぢて人に堕ちめや

                        与謝野鉄幹

*「この天地に存在するのはわれら二人のみ、というほどの恋もしよう、世を恐れねじけて、人間世界に堕してしまっていいものか。」 晶子との恋を詠んだもの。

 

  恋はしもこの人の世にゆくりなくわがやとひたる船とこそ思へ

                        与謝野晶子

  押し黙りわれは坐りぬこの恋を遂ぐつもりかと友のおどろく

                         川田 順

*晩年の弟子鈴鹿俊子との「老いらくの恋」は、自殺未遂の顛末が報道されジャーナリズムをにぎわした。川田は俊子と結婚、再婚後は京都から神奈川県に転居、俊子の2人の子を引き取って同居生活を送った。

 

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