難解歌(3)
岡井理論から、三十一の等時拍の音のかたまりを分節する干渉因子として
①「意味のリズム」 個々の意味を持った語から構成されている。
②「句分け」 五・七・五・七・七の構造を持つ。
③「母音律」 音の列の中に特定の優勢な母音があり、全体にある
リズム的な反復を与える。
④「視覚のリズム」 漢字・ひらがな・カタカナ などのつらなり。
などがあることを述べたが、その続きである。前回、無意味な記号では、「視覚のリズム」を感得することは難しいことを実験で示した。今回は、①「意味のリズム」と④「視覚のリズム」の組み合わせではどうなるかを見てみる。意味を持ついくつかの語とひらがな一字の繰り返しからなる歌として、
にぎやかに釜飯の鶏ゑゑゑゑゑゑゑゑゑひどい戦争だった
加藤治郎『ハレアカラ』
三十一音をキッチリ守っている。「ゑ」の連なりにいかなる効果があるのか気になるはず。これに②の「句分け」を適用してみる。
にぎやかに/釜飯の鶏/ゑゑゑゑゑ/ゑゑゑゑひどい/戦争だった
「ゑ」の字形と音が絶妙に厭戦気分を出していることがわかる。
つぎの例は、漢字の名詞だけからなる叙述を避けた「視覚のリズム」の歌である。これに②「句分け」と③「母音律」を適用すると、ちゃんと五音、七音で句切って読めるし、「り」が脚韻になるので、一首の意味は不明でも短歌のリズムになっている。
錐・蠍・旱・雁・掏摸・檻・囮・森・橇・二人・鎖・百合・塵
塚本邦雄『感幻楽』