天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

五感の歌―聴覚(2/2)

  律唱の太鼓の響めいめいの知覚にうけて足ぶみしをり
                         遠山光
*律唱という言葉は、辞書に出ていない。リズム感覚 というほどの意味だろう。

 

  そら耳か聞きとめて人語にもあらぬ なべてかそけし夜動くものは
                         斎藤 史
*そら耳: 実際には存在しない声や物音を聞いたように思うこと。人語でも
 ない音を聞いた。

 

  レースの上に椿の花の落ちたりしかすかなる音を今年もききつ
                         河野愛子
  ほのあをき湯に横たはりはるかはるか太古の魚の呼ぶ声を聴く
                         槙弥生子
*「太古の魚」とはどんな魚なのだろう。シーラカンスなら想像しやすいが。

 

  われのみにきこえぬ鐘にふれにしがふるへゐたりき鳴りてゐにしか
                         水原紫苑
  今朝の雨聞きながらさめ醒めながらただに聴きゐる今朝のこの雨
                         杉下幹雄
*寝覚めに聴いている雨音の状況がうまく表現されている。

 

  ききみみをたててもきこえぬ彼の世から声待つ夜半雷鳴ばかり
                         大和類子
*聞こえないと分かっている彼の世からの声に聴き耳をたてている。だが聞こえ
 てくるのは雷鳴ばかり。亡くなった誰かの声を待っているようだ。

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