天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

スポーツの歌ー野球(2/5)

妻よ汝(な)は近鉄ファンこのわれは広島ファン広島よ勝て 宮 柊二 樋笠打ちし代打逆転サヨナラ満塁ホーマーを酔えば語れる中年兄弟 小川太郎 サボテンに苦情を言つてゐるやうに白球を投げてゐる野茂英雄 荻原裕幸 円くまるく体ちぢめてゐたる捕手伸び上がりた…

スポーツの歌ー野球(1/5)

白球を追ふ少年がのめりこむつめたき空のはてに風鳴る 春日井 建 球は球を打ちて奔れるあやつられもてあそばるるは魂かも知れぬ 春日井 建 韮たまご肴に夜の酒甞むるまなかひにしてああ野球負けてゐる 山本友一 おもわくのしらじらとして在る午後をまちに軟…

スポーツの歌ーサッカー(2/2)

サッカーを観るときぐらい詠むことは忘れてしまえ 行け柳沢 高橋禮子 球一つ争い芝を走り来し脚と脚よじれまた離れゆく 三井 修 わが打ちしシュート、ネットに吸はるるを 老の眠りの夢に見てをり 岡野弘彦 ゴール前の百花繚乱ほしいものすべてが見えるコーナ…

スポーツの歌ーサッカー(1/2)

サッカーの練習のさま見つつゐる娘の新しき高校明るし 島田修二 蹴球に加はらざりし少年に見らるる車輪の下の野の花 寺山修司 ふるさとの贔屓にあらねふるさとは好きではないがガンバ大阪 池田はるみ キーパーが横に飛びたる空間にしばらく白き雨が映れり 佐…

歌まくらー茂吉の場合

斎藤茂吉では、所謂歌枕を詠んだ歌は少ない。その代わり地名を詠みこんだ作品は数多い。 [松島]宮城県松島湾一帯。 旅を来し一人ごころに松島の瑞巌寺にて砂の道ふむ [最上川]福島県境の吾妻山に発し山形県中央部を流れ日本海に注ぐ。 最上川水(みず)嵩(…

歌まくらー西行の場合(7/7)

[葛城山]奈良県の大和・河内国境の連山。主峰は金剛山。 かづらきやまさきの色は秋に似て余所(よそ)のこずゑは緑なるかな *まさき: ニシキギ科ニシキギ属の常緑低木。 [吉野山]奈良県吉野郡吉野地方の山地。 吉野山やがて出でじと思ふ身を花散りなばと…

歌まくらー西行の場合(6/7)

[高砂]兵庫県高砂市・加古川付近。謡曲「高砂」で有名。 高砂の尾上を行けど人もあはず山(やま)郭公(ほととぎす)里なれにけり [都太の細江]兵庫県姫路市を流れる船場川の河口付近。 ながれやらでつたの入江にまく水は舟をぞもやふ五月雨の比(ころ) […

歌まくらー西行の場合(6/7)

[高砂]兵庫県高砂市・加古川付近。謡曲「高砂」で有名。 高砂の尾上を行けど人もあはず山(やま)郭公(ほととぎす)里なれにけり [都太の細江]兵庫県姫路市を流れる船場川の河口付近。 ながれやらでつたの入江にまく水は舟をぞもやふ五月雨の比(ころ) […

歌まくらー西行の場合(5/7)

[深草]京都市伏見区深草一帯の地。天皇陵墓が多い。 鶉鳴くをりにしなれば霧こめてあはれ淋しき深草の里 [難波]大阪市を中心とした周辺の地域。「津の国の」枕詞を伴うことが多い。 津の国の難波の春は夢なれや葦の枯葉に風渡るなり [三島江]大阪府高…

歌まくらー西行の場合(4/7)

[嵯峨]京都府右京区の西都一帯の地。嵯峨天皇離宮や貴族の別荘などがあった。 此の里や嵯峨の御狩の跡ならん野山も果は褪(あ)せ変りけり [小倉山]保津川渓谷の出口近く、大堰川を隔てて嵐山に対する。紅葉の名所。 小倉山ふもとの里に木の葉散れば梢に晴…

歌まくらー西行の場合(3/7)

[神路山]三重県伊勢神宮内宮の神苑の山。天照山とも神垣山とも。 神路山月さやかなる誓(ちかひ)ありて天の下をば照らすなりけり [二見の浦]三重県伊勢市二見町の海岸。沖合の夫婦岩が有名。 今ぞ知る二見の浦のはまぐりを貝合せとて覆ふなりけり [御津…

歌まくらー西行の場合(2/7)

[足柄山]神奈川と静岡の県境にある金時山の北に連なる山。坂田金時の伝説。 雪解くる茂(し)みみに拉(しだ)くかざさきの道行きにくき足柄の山 *茂(し)みみに拉(しだ)く: 強く踏みしめる。 かざさきの: 風先の [風越]長野県飯田市の西方にある山(風越…

歌まくらー西行の場合(1/7)

このブログにおいて、2018年7月27日から2018年8月3日にわたって、「現代歌枕の発掘」と題して、現代短歌における歌枕につき考察している。 本稿では、古典に立ち返って名所旧跡を中心とした歌枕の例を西行の和歌にみてみよう。情景や地名の取り…

数・数学のセンス(2/2)

億年の時の流れのどのあたり赤き椿の花を拾ふは 安永蕗子 数字にて子らの姿は映せずと知りつつもなお数字書きおり 大城和子 風呂の湯は素数に設定されていて私は1度C上げてから出る 吉野亜矢 数の単位「浄」と「不可思議」量りつつかき氷の山くづしゆく昼 …

数・数学のセンス(1/2)

数や数学の概念を取り入れた短歌を取り上げてみたい。数や少数の単位には複雑な名前がついているが、多くの場合使用することが滅多にない。たまたま出会ったときにあらためて事典で確認することになる。例えば、名前のついている数字の最大数は、無量大数=…

一位の実

正一位、従一位などの高官が儀式のときに持つ笏の素材にこの木が使われたことから「一位」と名付けられた。北海道から九州までに分布する常緑高木。 別名にアララギ。 一位の實ルビーの如し九月藎 山口青邨 アララギは紅実老農白眉垂れ 中村草田男 燕去りア…

菩提子(ぼだいし)

俳句ではボダイジュともいう。テンジクボダイジュの実。淡黒色で丸くて香が強く、数珠を作る。 菩提子の実を拾ひをる女人かな 高浜虚子 菩提子の微光さゆるる日の表 中島花藻 菩提子はかなしほとけは美しき 岸風三楼 菩提子や息をひそめしまでにして 岸田稚…

稗(ひえ)

縄文時代から食べられている日本最古の穀物で、かつて重要な主食穀物であったが、昭和期に米の増産に成功したことで消費と栽培が廃れた。ただ最近になって栄養価の高さから見直されている。 雨がちに海の遅れ田稗多し 石田波郷 ぬきんでて稲よりも濃く稗熟れ…

忍(しのぶ)草(ぐさ)

シノブ、ノキシノブ、ワスレグサの異名。「忍ぶ」の語義から、恋慕の原因をも指す。 尼達は此名をしらじ忍ぶ艸 才麿 御廟年経て忍は何をしのぶ草 芭蕉 しのぶ艸庇にうへよふわの関 一茶 しのぶ草摘みぬ案内の蘆花夫人 瀧春一 思ひきや今日のわかなもしらずし…

思草(おもひぐさ)

ナンバンギセルの古名である、万葉集に以下の一首が載っている。ハマウツボ科の一年生の寄生植物で、日本、インド、フィリピン、中国などに分布する。 照り翳り南蛮ぎせるありにけり 加藤楸邨 曇り日や花開かずに思ひ草 小田芙美子 刈る萱に紅ひとかけら思ひ…

山椒の実

サンショウの実は薬用にまた香辛料にする。材は堅く、すりこぎに使われる。 古名をハジカミという。 為事の日実山椒朱を脱ぎ漆出で 中村草田男 講中によべ降り荒れし山椒の実 宮岡計次 山椒の実登りは言葉はぶきをり 加藤知世子 山椒の実嗅げば天地のゆとり…

小車(をぐるま)

全国各地の田の畔や湿気のある原野に野生しているキク科の多年草。日本では平安時代に加末都保(かすつほ)、加末保(かまほ)の名で呼ばれていた。花を薬用にしていたようだ。 小車は不便なる花のかづらかな 才磨 小車や何花と名の付くべきを 越人 小車や家越し…

車前

オオバコ科の多年草。カエル葉、相撲取り花などという方言もある。車のわだちの跡によく生えるところから車前の表記になった。 おほばこの花の若さを詠ひたし 細見綾子 車前草のつづく連帯わだちの間(あひ) 岡田海市 おほばこのゆるる他なき峠かな 九鬼あき…

秋草

「万葉集」の山上憶良の秋の七草以外の山野の草も含む。 秋の草まったく濡れぬ山の雨 飯田蛇笏 秋草一茎少しもつれて轍の中 中村草田男 窯出しの日は秋草も輝かむ 鈴木真砂女 秋草のみだれに人をかばひつつ 中村汀女 秋草の辺に何思ふかがまりて 志摩芳次郎 …

苜蓿の花

ヨーロッパ原産のマメ科の二年草。馬を肥やす牧草として江戸時代に輸入された。俳句では苜蓿(もくしゅく)と言う場合も多い。 苜蓿(もくしゅく)や墓のひとびと天に帰せり 山口誓子 われも坐す天文台の苜蓿(もくしゅく)に 本田青棗 苜蓿(もくしゅく)に一条自転…

独活(うど)

ウコギ科の多年草。日本原産で、北海道から本州、四国、九州までの山野に自生している。栽培も行われている。 雪間より薄紫の芽独活かな 芭蕉 廃坑の山より女独活さげて 小倉岳沓 索道で独活の一籠降ろされし 岡本庄三郎 菅笠に山うど入れて戻りくる 川中好…

海苔

日本語の「ノリ」はヌラ(ぬるぬるするの意)を語源とする。水中の岩石に苔のように着生する藻類全般を表す語で、広義には食用とする紅藻類・藍藻類の総称である。平安時代末期は「甘海苔」といい、アマノリを板海苔に成形した「浅草海苔」が江戸時代以降に…

蕨(わらび)

ワラビ科に属するシダ。全国の日当たりの良い草原に見られ、山菜として広く親しまれる。 早蕨(さわらび)を誰がもたらせし厨かな 高浜虚子 真下なる天竜川や蕨狩 富安風生 金色の仏ぞおはす蕨かな 水原秋櫻子 月日過ぐ蕨も長けしっこと思へば 山口誓子 早蕨を…

防風(ばうふう)

日本の海岸に野生するハマボウフウをさす。 防風のここまで砂に埋もれしと 高浜虚子 美しき砂をこぼしぬ防風籠 富安風生 防風とり怒涛の前にみな黙す 古館曹人 防風とる砂浄ければひざまづく 末永感来 わが丈に余れるいのち地に深くひそめ防風の強き根の張り…

茎立(くくたち)

春がたけるころに菜類が高く茎を立てて蕾をつけ、花を開くことをいう。 大小の畑のものみな茎立てる 高浜虚子 茎立てるものをとらへし牛の舌 渡辺大年 茎立つや石槌の雪また新た 高倉観涯 上野(かみつけの)佐野の茎立(くくたち)折りはやし吾(あれ)は待たむ…