天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2011-03-01から1ヶ月間の記事一覧

鑑賞の文学 ―俳句篇(15)―

水洟や鼻の先だけ暮れ残る 芥川龍之介 [山本健吉]死の前になってこの句を思い出すことが多く、たびたび短冊などに書いたものという。・・・次第に「動物力を失っている」自分を意識した彼にとって、鼻はただ一つ取り残されたものという感じがつきまとって…

福浦漁港

真鶴岬には何度も行ったが、それは真鶴港側を通るルートであった。今回は、真鶴半島の付け根にして真鶴港の反対側にある福浦漁港を初めて訪れた。たまたま、洋画家・中川一政の生涯をテレビで見て触発されたのである。東京に生れて97歳の長寿を全うした中…

みつまたの花

三椏はジンチョウゲ科の落葉低木で中国原産。樹皮の繊維は強く、和紙の原料として栽培された。高知が主たる産地になった。 三椏や泥土より立つ神の鹿 田川飛旅子 三椏のいろにはじまる雑木山 伊藤三十四 枝ごとに三つまた成せる三椏のつぼみを見れば蜂の巣の…

鑑賞の文学 ―短歌篇(15)―

たちまちに君の姿を霧とざし或る楽章をわれは思ひき 近藤芳美 [藤岡武雄]この歌は、昭和十二年七月、土屋文明を迎えて朝鮮の金剛山のアララギ歌会に出席し、その際に初めて会った年子(のちの妻)のことが背景になって作られた。自伝的小説『青春の碑』第…

花大根

紫花菜、大アラセイトウ、諸葛菜 などとも言う。諸葛菜という名は、諸葛孔明が広めたという伝説からきている。中国が原産地で、日本には江戸時代に輸入された。栽培されたものが野生化し、今や全土で見られる。 この春の花大根は株ふえて庭一面はそれのむら…

沈丁花

ジンチョウゲ科の常緑低木。中国原産という。花の香りを沈香と丁香にたとえて沈丁花という名がついた。 沈丁に帚さはりて匂ひけり 高浜虚子 夜の往診沈丁の香に迎へられ 吉田木底 沈丁花雨しめやかにいたる夜の重き空気のなかににほへり 金子薫園 沈丁の薄ら…

極楽鳥花

ストレリチアのことで、バショウ科の観賞用多年草。南アフリカには5種が分布するという。 弑逆(しいぎやく)を許すや否やカエサル忌とて咲ききつた 極楽鳥花(ストレリツイア)も 塚本邦雄 鳥籠を吊して待つは極樂鳥、この籠肋骨(あばら)のごと 軋(きし)めれど…

江の島サムエル・コッキング苑

日本で3番目に古い植物園。明治13年、横浜在住のアイルランド人貿易商のサムエル・コッキングが、江島神社(現在)の菜園敷地3800坪を買収し、明治15年に 植物園として開園した。大正12年の関東地震により、荒廃したが、江ノ島が昭和22年に藤沢市に編入され…

韮の花

中国南部から東南アジア原産のユリ科の多年草。葉が食用になるので畑で栽培される。栄養価が高い。 みすず刈る南信濃の湯の原は野辺の小路に韮の花さく 伊藤左千夫 仕合せはなべて君より来る日々に花ひらきゆく花韮の道 近藤とし子 韮の花咲きしばかりに遠世…

震災に思う(2)

大磯から湘南平を歩いた。東北関東大震災のことが頭を離れない。土曜日だが、さすがにこの時期、山道を散策する人影は無い。買いものに走っているのだろう。鴫立庵でも訪問者は私の外誰もいなかった。 地震(なゐ)跡をいたむ鴫立庵の春 小鳥きて鴫立庵をにぎ…

震災に思う(1)

この度の東北関東大地震と大津波は、原子力発電所の防護設備や港湾の防波堤などの設計値をはるかに上回るものであった。現在の地球物理学や原子力工学のレベルが、まだまだ現実の自然現象に追随できていないことを暴露した。 大災害が発生して初めて、石油、…

万葉集勉強会

八世紀末に大伴家持によって編纂されたという万葉集は、二十一世紀の現代にいたるもその人気は、いささかも衰えていない。日本という国(人・自然・社会)のアイデンティティを確かめる拠り所のひとつなのである。勉強会は各地にある。BS・NHKハイビジ…

犬のふぐり

ゴマノハグサ科クワガタソウ属の二年草。3月から5月に淡紅紫色の小花をつける。草の名は、実の形状からきている。現在、このイヌノフグリは少なく、絶滅危惧種に指定されている。2月頃から空色の花を咲かせる種類は、明治以後の帰化植物「オオイヌノフグ…

鑑賞の文学 ―俳句篇(14)―

小鳥来る音うれしさよ板びさし 与謝蕪村 [水原秋桜子] 秋が次第に深くなり、木の実もよく熟れた。山ちかい家の板廂だから、その木の実が落ちて、しずかな朝や、更けた夜に音をたてる。小鳥の渡って来るのもその頃である。鶫、花鶏、鶸、いかるーそうした翼…

ミモザ

オーストラリア原産、マメ科アカシア属の常緑高木。わが国には明治初期に渡来した。花が総状に咲くところから、房アカシアともいう。南フランスのカンヌでは、3月にミモザの「花祭り」が行われる。なお、銀葉アカシアという種類もある。 南仏にミモザの花が…

鑑賞の文学 ―短歌篇(14)―

大空は梅のにほひに霞みつつ曇りもはてぬ春の夜の月 藤原定家『新古今集』 [塚本邦雄]心と詞が華やかに伯仲し、志と技法とが相和して、まこと天馬空を行くやうな歌境を示してゐる。一首の意は譯するまでもない。例によつて梅花と春月の夢幻を題材に、いさ…

ローズマリー

シソ科に属する常緑性低木で地中海沿岸地方原産。薬用植物で、全体に良い香りがあり,枝や葉を香料に用いる代表的なハーブ。和名はマンネンロウ、漢字表記は「迷迭香」で、江戸時代から知られていた。生葉もしくは乾燥葉を香辛料として用いる。精油は薬に用…

万作の花

マンサク科の落葉低・小高木。早春、枝いっぱいに咲くので、豊年万作を願うところから、この名がついた。黄色の花の額片四枚の内側が暗紫色。金縷梅(きんるばい)とも。 春山の日向の雪にかげしつつゆめよりあはく万作咲けり 結城哀草果 いち早く開きそめたる…

福寿草

キンポウゲ科の多年草。北日本に多く、落葉樹林の地面にはえる。早春を象徴する花である。花の色には、赤、橙、白、みどりなどがあるというが、金色のものしか見たことがない。 風いく日乾反りて荒れし庭土にほほけて咲けり福寿草の花 太田水穂 福寿草を縁の…

菜の花

[地震お見舞い]まだまだ余震が続くので、十分気をつけましょう。わが家でも棚の皿やガラス器が落ちて壊れました。本棚が倒れないように手で押さえていました。 アブラナ科アブラナ属の花。香川県、高知県、千葉県、三重県などでは、食用の生産が盛んである…

金沢文庫―運慶展―

神奈川県立金沢文庫80年特別展「運慶」―中世密教と鎌倉幕府―が、1月21日(金)〜3月6日(日)の期間、開催された。運慶の作品が、東国にあることに少し驚く。彼の一族は、奈良を本拠地としていた。平家滅亡後、父の成朝が、鎌倉幕府開設に当たって、…

鑑賞の文学 ―詩 篇(2)―

以前、蒲原有明の鎌倉旧居について紹介したが、それがきっかけで日本の近代詩につき要点を知りたくなった。それで、吉田精一『日本近代詩鑑賞』の明治篇、大正篇、昭和篇(新潮文庫)の古書三冊をアマゾンで購入し、読み始めた。著者の吉田精一は、近代文学…

青木の実

ミズキ科の常緑低木。雌雄異株で大気汚染に強い。冬になると楕円形の実が赤く熟れる。それをヒヨドリがついばむ。 青木の実毎年落ちて生ひけらしここの谿間の多くの青木 木下利玄 青木の実山椒魚の北限に雪降る頃かいよいよ赤し 馬場あき子

早春賦―湯河原梅林―

湯河原梅林は、城山を挟んで温泉街の反対側、幕山のふもとにある。幕山の岩壁は、ロッククライマーにとっては有名なゲレンデであり、その眼下に梅林が広がっている。以前は、毎年のように、幕山から隣の南郷山を歩いたものだが、このところご無沙汰している…

早春賦―田浦・梅の里―

JR横須賀線・田浦駅から徒歩で20分ほどのところにある。このところ比較的天候が温暖であったので、梅林は満開になっているのでは、と期待したのだが、ガッカリであった。小高い山の上は、桜の裸木が林立しているので、四月ともなれば、花に覆われて見事…

穴子

アナゴ科の魚の総称。初夏に産卵。幼形は、鰻と同じレプトセファラス。成魚は、全長60cmに達する。夜釣りで捕える。てんぷらや寿司ネタとして美味。東北、北陸ではハモと呼ぶらしい。関西で椀種、照焼、湯引などで珍重されるハモとは別種。こちらのハモ…

鳥インフルエンザが拡がりを見せるのは、渡り鳥に原因のひとつがあるという。気がかりなのは、鹿児島県北西部出水平野の水田地帯に来ている鶴の群である。毎年十月中旬頃から翌三月頃にかけて約一万羽が越冬する。ここを訪れて歌を詠んだ歌人は多いようだ。…

早春賦―松田山―

小田急線「新松田駅」で下車、徒歩で20分ほどのところにある松田山の中腹は、今、河津桜と菜の花が満開である。ヒヨドリや目白が桜の花の蜜にとりついている。桜の花の間から見える積雪の富士は、ことに見事である。 菜の花と河津桜と咲きそろふ 寒桜メジ…

佛手柑

「ぶしゅかん」は、ミカン科シトロン類の常緑低木。インド東北部が原産。初夏に白色五弁の花を咲かせる。果実は芳香があり濃黄色に熟し、長楕円体で先が指のように分かれる。名称はその形を仏陀の手に見立てたもの。身が少ないので生食には向かず、一般的に…

鑑賞の文学 ―詩 篇(1)―

角川「短歌」2月号で、大特集「歌人・岡井隆」を読んだ。作品論は参考になった。「私の岡井隆体験――好きな一首」の項では、小池光の文章「歌人の内なる詩人」に感動した。一つには、小池さんが好きな一首として ホメロスを読まばや春の潮騒のとどろく窓ゆ光…