天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

諷刺(10/10)

貴賓席に椅子の多くて椅子のまを通る貴賓が横歩きする 中野昭子 *貴賓にふさわしくない情景。 樹のことば聴く少年のものがたりヒトも化石となる日あるべし 島津忠夫 *上句と下句の関係がよく分からないが。 駅にむき幕垂れいたり日本初冠婚葬祭専門学校 大…

諷刺(9/10)

なんだって売っているわというからに百円ショップで青春捜す 西岡洋子 幼児のごとはつたりと転びたり後期高齢者の具体例とし 山埜井喜美枝 三つ指をつけばふとしも「ふつつかですが」「おいとまを」とも言いそうになる 佐波洋子 *三つ指をつく場面で言う言…

諷刺(8/10)

あのひとは体のどこかに鮟鱇をぶらさげている 梅雨明け近し 中川佐和子 *鮟鱇の何(性格?体系?)を比喩に用いたいのかわからない! 数をもてプラカード持ちじぐざぐとゆくを正しき道と思ふや 佐佐木信綱 *「正しき道」とは? まことに辛辣な風刺である。…

諷刺(7/10)

近代百年山姥を殺めきれざりし青空が青き糸紡ぐ音 川野里子 *これは解釈困難! 上句はどんな説話を指しているのだろうか? 顧みる折々はあれ我常にくちばし軽く舌薄くして 小暮政次 *過去を顧みて話をするときの作者の状況が下句に諷刺されている。 中国詩…

諷刺(6/10)

階段をころげ落ちるのも定型であればやっぱりつまらないのだ 高瀬一誌 *高瀬一誌は短歌の定型を嫌い、ここにあげた例のような定型崩しをとった。例えば第三句を省略するとか。 新華航空公司が土産にくれし黒き帽子を中国の人皆かぶって降りぬ 高瀬一誌 いっ…

諷刺(5/10)

歌壇名簿にわが名洩れしは鬼籍にも入れられしかと某女さわげり 岩田 正 真夜中の無人工場ロボットがロボットを作る音の不気味さ 大平勇次 *結句「音の不気味さ」が効いている。 言語二種喋れるやうな気になりて白梅紅梅の林を出づる 大森益雄 こらへ性なき…

諷刺(4/10)

ことばとふやはらかき角はえてゐる大かたつむりわが腕のぼる 上村典子 *ことばをやはらかき角に見立てているようだが、下句は作者がなにか言葉を発しようとしている状況を比喩しているのだろうか? 難解。 炎天に穴掘る吾にうろんげな視線の寄れば屍体など…

諷刺(3/10)

櫨の木のもみぢひと葉のこぼれゐて路上しづけき挑発に遇ふ 安永蕗子 「薄情」といふ美しき文字(もんじ)をばゼッケンとして再た逢はやも 河野愛子 わが家の楽屋話をふりまきに犬ひきつれて幼子が行く 服部亘志 紫電改などいふ薬ふりかけて朝あさのわが額(ぬか…

諷刺(2/10)

女房の性情をすら変えられずユーモアのつもりにて「余録」氏記(しる)す 阿木津 英 撫でさすり洗い清めて育てれば気品の高き豚となりたり 王 紅花 床下に水たくはへて鰐を飼ふ少女の相手夜ごと異る 松平修文 *夜毎異なる相手と過ごす部屋の床下に、少女は鰐…

諷刺(1/10)

諷刺(風刺)とは、他のことにかこつけるなどして、社会や人物のあり方を批判的・嘲笑的に言い表すことであり、文芸作品には非常に多い。(辞典から) 短歌の場合、語数が少ないだけに表現の裏を解釈するのに苦労ずる。 そらんじてゐし花言葉つぎつぎに置き…

出でよ世紀の西行(6/6)

以下、現代の西行に要請される条件をまとめておく。対極にある定家、塚本の特徴は、定住・妻帯者。短歌の形式は、三十一字の苦患であるとし、極限まで酷使して、詞が先の「もみもみ」体で前衛・仮象の美を求めた。 現代の藤原定家である塚本邦雄は、「短歌に…

出でよ世紀の西行(5/6)

一方の塚本は、六十代に入っても、歌の若さを保ち続ける。詠いぶりも、本歌取り・パロディあり、漢語、洋語、和語など自在に駆使して、その精力には圧倒される。 花蘇枋われは童女を侍らせて死ののちの死のことなど想ふ 駅長愕くなかれ睦月の無蓋貨車処女ひ…

出でよ世紀の西行(4/6)

西行の五十歳代は、平清盛の全盛時代と一致している。五十歳になった西行は、四国行脚に発つ。讃岐に流刑されていた崇徳院が、四年前に四十六歳で崩御されていた。生前も西行は慰めの歌を度々送っていたが、院の行状には批判的であった。讃岐に来たのは単に…

出でよ世紀の西行(3/6)

一方、三十代、四十代の塚本邦雄は、前衛の旗手として、従来の短歌では忌まれた破調・句跨りの新しい韻律に乗って、反戦と革命、現代文明批判、キリスト教など広範なテーマに挑み、先鋭な歌を次々に発表する。 暗渠の渦に花揉まれをり識らざればつねに冷えび…

出でよ世紀の西行(2/6)

一方塚本は、近代戦争における国家と軍、敗戦の悲惨をつぶさに見つめる生活を送っていた。戦後すぐに総合商社に就職したので、経済的には安定した状態にあった。前川左美雄に師事し、良きパートナー杉原一司に出会って短歌にのめり込み、新しい方法論を求め…

出でよ世紀の西行(1/6)

角川『短歌』平成十三年二月号に、刺激的な対談が載っている。現代の代表的歌人である岡井隆と詩人でもある高橋睦郎が、漂泊がないと文芸は成立しない、文芸とは本来妻帯者のものではないし、安定と対極にあるものと断じている。真の詩人は、妻帯せず、定住…

晩年を詠む(3/3)

晩年のわが手を引くは誰ならむ盲(むしひ)の犬と春の土手ゆく 伊勢方信 いかがなる晩年来ると思ひしが至りてみればごく当り前 斎藤 史 八月の影ある道は晩年の日々のかなしみよみがへらしむ 秋葉四郎 *晩年とは誰の晩年なのか? 作者の晩年なのか、あるいは…

晩年を詠む(2/3)

青嵐去れり五十を晩年とおもひしばらくのちにおもはず 塚本邦雄 紅鶴(フラミンゴ)ながむるわれや晩年にちかづくならずすでに晩年 塚本邦雄 晩節に入りて苦しも片なびくわれも茅(ちがや)かかがよひのなか 高嶋健一 *高嶋健一: 高齢になるにつれ、人工透析を…

晩年を詠む(1/3)

晩年とは文字通り、老若に関係なくその人にとって一生の終わりに近い時期をさす。 かろうじてつらぬき得たる晩年をよろこぶわれやきみの手を執る 山田あき *一首は、夫・坪野哲久の死に際して妻・山田あきの感情と行為を詠んだ歌と解釈したい。坪野哲久の享…

別れを詠む(10/10)

どくだみの青白き花濡るる路別れて急ぐこころは花火 大野誠夫 *結句「こころは花火」の比喩が難解。別れた相手のことや話の内容などをどのように想像したらよいか。連作の一首か。 声のなきさよならを言ひ硝子戸の向う忽ち身をひるがへす 川崎勝信 *別れを…

別れを詠む(9/10)

へだたりしまま逝かしめて今日よりは偶然にても逢ふことはなし 田中子之吉 *初句二句が気になる。三句以下は当たり前のこと。気まずいことがあって仲直りしないまま、相手が亡くなったのであろう。 お別れに吉野弘の詩を読みて顔を上ぐれば根子が泣いてゐる…

別れを詠む(8/10)

離れ行く車窓に別れの手を振りてその手をしまうところに惑う 武市房子 迢空にとわの別れを告げて帰るコツコツコツコツ吉野秀雄と二人の歩み 加藤克己 *釈超空は昭和28年に亡くなった。作者は吉野秀雄と共に、葬儀に出席したのだろう。ちなみに吉野秀雄は昭…