天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが句集・平成四年「獅子頭」

牡丹園傘さしたるが獅子頭 碧き目の流鏑馬の射手疾駆せり 水位計赤く点滅梅雨の川 夏の木の命の音よ聴診器 週末の畑仕事の西瓜冷ゆ 舎利殿は座禅道場蝉時雨 初物の梨むく皮の長からず 骨董の競りの声飛び蓮の実飛ぶ 指さすを見れば瓢箪青きかな 虫すだく夜道…

「わが句集」について

新聞や雑誌の俳句欄、結社紙、NHK俳壇、俳句大会などに掲載されたわが作品を、投句を始めた平成四年から最近の令和二年まで一部未発表分を含めて(全3,031句)、年ごとにご紹介しておきたい。なお作者名については、長く本名(秋田興一郎)を使用していた…

歌集『運河のひかり』

時本和子さん(「短歌人」同人)の第二歌集が、10月26日付で砂小屋書房から発行された(定価3000円)。 全413首。ゆたかな情景描写に惹かれる歌集。家族、旅行、日常 の様々が懐かしく描かれていて、時本さんの素晴らしい人生がうかがわれる。 技…

わが歌集・令和三年「封じ手」

競売に高値つきたり最年少藤井聡太の封じ手のメモ ゴミ捨て 七首 熟睡(うまい)せる犬を離れて隠れたり目覚めし時のうごきを見むと 目覚むれば主をらざり見まはして隠れし彼をみつけ寄りゆく 断捨離を前にためらふととのへし入選句歌のあまたのファイル あま…

わが歌集・令和二年「予兆」

颱風の合間 七首 テーブルに懐中電灯ひとつ置き颱風くるをおびえて待てり バス停のベンチに鳥の糞あればよけて座りぬすずめ啼くとき なまぬるきバスの車内に見はるかす空に予兆の颱風の雲 ランチタイムはライス無料の焼き肉店パート募集ののぼりはためく 灰…

わが歌集・令和元年「同窓会」

ショータイム(二) 七首 大谷は復帰後すぐにDH六番にして球場湧かす 復帰後の二戦目に打つ初ヒット明日は大谷二十四歳 一か月ぶりのヒットによろこびの声あがりたり国のあちこち 復帰後のアメリカ独立記念日を祝福したりヒット、二塁打 大谷が苦手な左投手…

わが歌集・平成三十年「春愁」

イチローを追ふ(十一) 七首 外国人選手トップの安打数MLBの歴史にのこる 先発し六打席あり二安打しアウト一つにフォアボール三つ フィリーズ戦代打に立ちてスリーラン百三十二メートル飛ぶ 名投手ストラスバーグの直球に三球三振うつ向きもどる 先発し…

わが歌集・平成二十九年「振り子打法」

イチローを追ふ(二) 七首 その年のドラフト一位は田口壮イチローは四位高卒にして 生意気と振り子打法の嫌はれて二軍降格一再ならず イチローの癖を矯正せむとせし土井正三と山内一弘 打ち方の指導拒否して達成す最多安打と最高打率 イチローの真価見出し…

わが歌集・平成二十八年「スーパームーン」

備忘録 八首 電柱にしがみつきたる人のあり助けもとむる洪水の町 母と娘(こ)と共に参加のボランティア洪水あとの家をたづねて 道の辺に玉ねぎひとつころがりて人待ち顔につややかなりき ベランダにカメラかまへて息ころしスーパームーンのかがやきを撮る マ…

わが歌集・平成二十七年「多摩川」

多摩川紀行(一) 八首 多摩川の河口左岸にせり出せり五十間鼻無縁仏堂 おごそかに稲荷大神現れて「稲荷山」とふ舞を舞ふなり 秋風の穴守稲荷例大祭テントを張りて地のものを売る さまざまのペットボトルの散らばれる岸辺かなしき秋の多摩川 亀甲山(かめのこ…

わが歌集・平成二十六年「超新星爆発」

定家卿を訪ふ(五) 八首 尋ね来し水無瀬宮址に碑を探すむぐら茂れる線路の脇に 後鳥羽院、定家ら歌人の集ひける水無瀬の里は電車が通る 正二位にのぼりつめたる喜びを「希代ノ珍事」と明月記にあり 為家の嫁の実家を頼りては国司になるを相談したり 大金を…

わが歌集・平成二十五年「霧笛橋」

島崎藤村展 八首 霧笛橋渡りて近代文学館藤村展を見むとわが来し 五七調はた七五調読むほどに心地よくなる藤村の詩(うた) 三越で渡欧の前に誂(あつら)へし小型トランクまだ使へさう 藤村の頭の臭ひ残しゐむふたつ展示のカンカン帽は 口少し開きて顎鬚まばら…

わが歌集・平成二十四年「宇宙と素粒子」

宇宙と素粒子 八首 人類の叡知美(は)しくも怖ろしきE = mC2 豚が走り牛がさまよふフクシマの原発避難地区を映せり 理論とはシナリオのこと現実の観測結果と辻褄の合ふ 原始、力は一種であったその後の宇宙膨張につれて分岐す 相対性理論も古典力学もつひに為…

わが歌集・平成二十三年「イチロー」

イチローは二百安打へあと七本テレビ見ていた糸瓜忌の昼 数の世界(二) 八首 数学を飛躍せしめし古き代のインドの工夫 0(ゼロ)、記数法 0(ゼロ)につき加算減算乗算の性質述べしブラーマグプタ 整数の除算のできる新しき数を定義す 分数といふ ピタゴラス…

わが歌集・平成二十二年「シロフクロウ」

つれあひを亡くしし雄のシロフクロウわが口笛にふり向きにけり ひさびさに身内親戚集まれば育毛剤も話題にのぼる 冬隣 八首 赤い羽根共同募金のコンコース女子高生にわが胸の寄る あたたかき日差好めるエゴ、サクラ、コナラ、クヌギは陽樹なりけり 日の弱き…

わが歌集・平成二十一年「水行」

警杖をつきて玄関前に立つ横浜水上警察署員 運上所の役目ひきつぎ灯ともせり昼なほ暗き横浜税関 水行の白衣に透ける赤き肌経唱ふれば湯気をたてたり 峠 八首 箱根路を『金槐和歌集』たづさへてわが越えくれば初島の見ゆ 丈ひくき竹薮原の山頂に道ありて歌碑…

わが歌集・平成二十年「武士道」

水草を食みて泳げる池の鴨我との間をつかず離れず フランス式レンガ積なる要塞のトンネルの中暗き電灯 武士道 八首 自刃せし山の斜面ゆ遠望すかすみて揺らぐお城の天主 線香の煙にむせぶ白虎隊隊士の墓の数を気にする ただひとり生き残れるを非難され会津を…

わが歌集・平成十九年「玉くしげ」

滝おちてくれなゐの橋かかりたり山を彩るもみぢかへるで きよろきよろとあたり見回し羽根ひろぐ衆人環視の池の鵜の鳥 寒川の神に供へよ白豆腐母乳ゆたかに子育てかなふ 色満たぬ紅葉わびしき大山に厄除けせむと投ぐるかはらけ 霜月 八首 透谷の墓のちかくに…

わが歌集・平成十八年「予科練」

予科練の曲を奏ずる老夫婦アコーディオン弾きタンバリン打つ 人だかりして動かざり藍ふかき冨嶽三十六景の前 同窓会 八首 次々にトンネルに入りて味気なし車窓に映る乗客の顔 鋭角に空をつきさす神山を仰ぎて食ぶる黒玉子かな 枯葉しく山路をくれば何鳥か鋭(…

わが歌集・平成十七年「アマリリス」

丁寧に墓を浄むる白髪の老婆を見たり谷戸の朝日に 塔あまた立ちてパイプをめぐらせる白濁の潮 早川 八首 黄葉の散れる水面は早川のみなもと近く水ゆたかなり 芦ノ湖をみなもととせる早川の流れにそそぐ湿原の水 山肌に白煙立てり神山のを深むる晩秋の雲 紅葉…

わが歌集・平成十六年「もみぢの客」

海草の屑乾きたり晩秋の白砂に色さまざまに散る 馬に乗る女の腰の豊けきに見とれてゐたりあしがらの里 しゆるしゆると電車走れり立冬といへど薄着の関東平野 年間無休暁天坐禅の仏殿に観光客が賽銭投げる 大震災埋没者供養塔立てり「殊顔妙艶童女」の碑銘 も…

わが歌集・平成十五年「大根の苗」

観光の道の裏側竹むらの陰に植ゑある大根の苗 夕されば駅の広場のクスノキに何鳥か群るこぼれむばかり 太刀魚の銀の刺身のの旨味極まる雪国の酒 外来におわあおわあ猫が鳴き二時間近く待ちて呼ばるる 祖父二枚祖母四枚を書きしとふ政府に託す孫への手紙 息吸…

わが歌集・平成十四年「亀の日常」

首出して石に腹這ふ半日を微動だにせぬ亀の日常 杉山の杉の精霊流れ出づ奥多摩川の水青白き 秋晴の昼日中から酒を呑むわが幸せの彼岸なりけり 妻を恋ひ子を恋ひやがて死にゆくを遺伝子に持つわれら人類 ハリハリと木の葉食みゐる檻の中黒く尾長きフランソワ…

わが歌集・平成十三年「香菓(かぐのこのみ)」

それぞれの落葉掃く朝曇り日の小路小路 曇り日のここは明るき黄葉の欅広場に子ら飯を食む 岩壁の赤きロープに取りつける人影ひとつ山紅葉照る 学園の裏庭覗く日曜日消し忘れたる聖樹の明かり シドニーのマウンドに立つ松坂を熱燗酌みてわが声援す 表情のなき…

わが歌集・平成十二年「扉」

この山の抱ける熱き塊に湯は湧き出せり一の湯二の湯 水槽の底ひも壁も青ければアカクラゲの傘ますます赤き 手も肩も首なきもあり羅漢像廃仏毀釈に風化加はる 人のせてゆきし牛車は暁に服のみのせて帰り来しとふ 穴あまた開けたる幹に団栗に合ふ穴探すドング…

わが歌集・平成十一年「蟹葉覇王樹」

くれなゐの爪を開きて踊りゐるテレビの上のカニバサボテン 氷河期を越えここに残れる薄羽黄蝶の食草とする駒草の花 生殖と性の喜び切り離す電気ショックが受精に替はる 自が手に自がクローンを作り出す細胞学者わが夢に棲む 妻は麦酒われは老酒飲みながら子…

わが歌集・平成十年「茅の輪」

東京湾横断橋は瀟洒なり秋の日差しに白く霞める 死後遊ぶ庭とぞ思ふ池の辺に彼岸花咲き朱の橋かかる 憲兵の刀の脅しもきかざりしジャパンブルーの「別れのブルース」 江ノ島の屋台に入りてコップ酒壺焼きに酌む子連れの夫婦 山頂に山の幸売る媼ゐてわがひと…

わが歌集・平成九年「望遠鏡」

望遠鏡に真白きドームの立てる見ゆ雪積む富士の山頂の端 髪の毛の硫黄臭きを言ひ合ひて乙女ら立てり大湧谷に 悲しもよコバルトブルーの湖の底神楽を舞ひし村の沈める 釣り餌のさそひに耐へし魚たちの空気吸ふ音夜の川の面 北京好日 十四首 焼藷を並べて売れ…

わが歌集・平成九年「望遠鏡」

望遠鏡に真白きドームの立てる見ゆ雪積む富士の山頂の端 髪の毛の硫黄臭きを言ひ合ひて乙女ら立てり大湧谷に 悲しもよコバルトブルーの湖の底神楽を舞ひし村の沈める 釣り餌のさそひに耐へし魚たちの空気吸ふ音夜の川の面 北京好日 十四首 焼藷を並べて売れ…

わが歌集・平成八年「桃太郎」

「おはやう」と「ばか」くり返すオウムゐる人語悲しき公園の朝 にぎわいし夏の浜辺の海の家秋風吹きて跡形もなし 桃太郎の歌口ずさむ子等住めりミクロネシアの珊瑚の島に 日の丸の国旗を立てし家一軒黄菊白菊庭にかがやく 文化の日枯れ残りたる向日葵のうつ…