天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

卯の花(2/4)

わがやどのかきねや春を隔つらむ夏来にけりと見ゆる卯の花 拾遺集・源 順*「我が家の庭の垣根は今ちょうど春を分け隔てているのだろう。夏が来たよと生垣の卯の花が教えてくれているように見える。」 山がつのかきねに咲ける卯の花はたがしろたへの衣かけし…

卯の花(1/4)

卯の花については、2007年5月30日、2011年5月26日、2012年5月17日 のブログでも取り上げているので、それらとは重複しない作品をあげた。 卯の花は、幹が中空なのでウツギとも呼ぶ。初夏に白い五弁の花が穂をなして咲く。箱根うつぎの花は、白、紅、紫 と多…

友を詠む(7/7)

気障なりし面影もなく杖による友の繰り言なだめつつきく 丸山郁子*気障(きざ): 「きざわ(気障)り」の略。服装や言動などが気どっていて嫌な感じをもたせること。 年積みて穏しくなりと思ふ友長く話せば以前と同じ 東野典子*穏(おだ)し: おだやかだ、…

友を詠む(6/7)

信頼を温めながら酌む友の寡黙をほぐす酒をまた注ぐ 吉田秋陽 死顔を見られたくないと言ひし友それよりはやく過ぎし幾とせ 清水房雄 この友とも老を嘆きあふいとま無く歌会果つれば相別れゆく 清水房雄 かむりきの峠の駅はわが友が駅長にて萩の花植ゑし駅 斎…

友を詠む(5/7)

たのしみは心をおかぬ友どちと笑ひかたりて腹をよるとき 橘 曙覧 雨荒く降り来し夜更け酔い果てて寝んとす友よ明日あらば明日 佐佐木幸綱 俺は帰るぞ俺の明日(あした)へ 黄金の疲れに眠る友よおやすみ 佐佐木幸綱 友達として書きかはす手紙には空のこと海の…

友を詠む(4/7)

貧生涯ただいちにんの侶たりき吾妻のいのち死なしめざらむ 坪野哲久*吾妻とは6歳上の歌人・山田あきのこと。 戦争に君を死なしめざらむとす友の多くが今夜(こよひ)つどふも 高田浪吉 歯ぎしりの時期を糧ともなしながら得し友遂に去りゆきし友 水野昌雄 心弱…

友を詠む(3/7)

酒飲めば酔ひてたのしくなる友にひとり飲ましめ我は飯食ふ 窪田空穂 凩(こがらし)を聴きておもふはすでに亡き友啄木がありし日のこと 吉井 勇 よき友にたより吾がせむこの庭の野菊の花ははや咲きにけり 古泉千樫 友がみなわれよりえらく見ゆる日よ花を買ひ来…

友を詠む(2/7)

やま里にうき世いとはむ友もがなくやしく過ぎしむかし語らむ 新古今集・西行 ながむるに慰むことはなけれども月を友にてあかす比(ころ)かな 新後撰集・西行 ありあけの月よりほかに誰をかはやま路の友とちぎり置くべき 新古今集・寂超 とまるべきやどさへみ…

友を詠む(1/7)

とも(友、共、伴、朋、侶)は、つれ、仲間のこと。語源は、朝鮮語「とんも」、中国語「とん(同)「とむ(党)」などとする説あり。 友を詠んだ作品には、心に沁みるものが多い。 さ夜中に友呼ぶ千鳥もの思ふとわびをる時に鳴きつつもとな 万葉集・大神女郎…

こころざし(3/3)

霧ふかく真木立つ夜を壮年の奥ひとつなる意志の鳴りいづ 小中英之 春過ぎてなお冷ゆる夜や時あらばわれに来よ一つの意志とよばむもの 井上美地 たたかふとは銃を取るとは限らざり不義、貧、腐敗に真向かはむ意志 大津留温 「意志」といふ語をきらきらと輝か…

こころざし(2/3)

志くずれゆくごと見られつつひと庭しろき鷺草も散る 馬場あき子*鷺草の唇弁は大きく、その開いた様子が白鷺が翼を広げた様に似ていることが和名の由来である。その美しい花が散る様子をみると、「志くずれゆく」ように感じられるのだ。 こころざしいまだ朽…

こころざし(1/3)

「こころざし」という言葉の響きにロマンと心の余裕を感じる。こころざし(志)とは、➀心に思い決めた目的や目標、➁相手のためを思う気持、➂謝意や好意などを表すために贈る金品 などを意味する。類似の言葉に、意志、素志などがある。 こころざし深くそめて…

自動車ロボット

日頃よく散歩にゆく近所の俣野別邸庭園については、2017年4月20日にご紹介して以来、何度か触れてきたが、今回は初めて目にした光景であった。本邸のある上方の芝生の庭の一隅に、「俣三郎のお家」と書かれた小さな車庫があり、いつもおもちゃの自動車が納ま…

祖父母を詠む(3/3)

月に一度山の小屋より下り来る祖母を恐れき山姥のごと 永井保夫 この秋も祖母は芒の白髪を風に委(まか)せてあの丘の上 相沢光恵 祖母よりの便りひらけば坂下のポストへ向かふ杖の音聴こゆ 松本典子*祖母が送ってくれた手紙をひらく時に、その手紙を出しにゆ…

祖父母を詠む(2/3)

祖母が口くろくよごれて言ふきけば炭とり出でてうまからずとぞ 片山貞美 祖父また父さびしき検事近眼のこの少年の楽器を愛す 大野誠夫 くびらるる祖父がやさしく抱きくれしわが遥かなる巣鴨プリズン 佐伯裕子*作者の祖父は、陸軍大将・土肥原賢二でA級戦犯…

祖父母を詠む(1/3)

祖父母を詠むことは、現代になってから増えたようだ。古典和歌では例が少ない。短歌を詠める年ごろからすると、祖父母を詠む場合が一番時間が離れており、記憶に頼ることが多い。それが歌数の少ない理由ともなっていよう。 親の親と思はましかば訪ひてまし我…

孫を詠む(3/3)

我に勝ちえざる将棋をいつよりかやめたる孫のしつくりとせず 竹山 広 孫よわが幼きものよこの国の喉元は熱きものを忘れき 竹山 広 越えてきた六十余年を振り返り財はなけれど孫十一人 吉田秋陽 生まれたる孫抱きみれば色白し羅臼の海のクリオネに似て 秋葉雄…

孫を詠む(2/3)

初孫を抱いた時の感情は共通している。孫は一緒に遊んだり教えたりする対象であることも共通している。 鉄の匂ひ染みし両手に抱き上ぐる初孫といふこの脆きもの 中村重義 小さくて愛しき者よ初孫を抱きしむれば壊れそうなる 井関淳子 孫のため買ひしおもちや…

孫を詠む(1/3)

まご、うまご(むまご)は、子の子あるいは子孫 を意味する。孫を詠んだ短歌にはろくなものが無い、孫を詠むのは難しい、と言われる。確かに古典和歌以来、孫の歌は少ない。年が離れていたり、手塩にかけて育てることが少ない などが原因ともなっていよう。…

子を詠む(6/6)

すこやかに寝息をたててゐる吾子よ争ふときのやがて到るべし 山中律雄 一つ皿の魚を箸もてほぐし合ふ傍への吾娘も稼ぐ日近し 井田金次郎 父亡くて育ちし吾と母なくて生ひ立つ吾子といづれ寂しき 高橋誠一 抱かれて眠らんとする末の子が吾の胸毛の白さを言ひ…

子を詠む(5/6)

駈けてくる吾子抱きとめむこの胸は凪ぎつつ港とならねばならぬ 高尾文子 癇の虫封じ終りて戻る道ぴつたりと頬つけし背の子はぬくし 湯沢千代 あたたかき息して眠る吾子二人 月下に青梅ぎっしり実る 上田 明 子を死なしめしけだものに似る悲しみを押しこらへ…

子を詠む(4/6)

風化して傾きゐずや年を経しかの草かげの吾児の墓標よ 大西民子*作者は、23歳で結婚、男児を早死産し半年あまり病床にあった。 入浴を終えたる吾子が真裸にまろび逃げゆく春の夜具のうえ 橋本喜典 山坂を歌ひてくだる一群のなかにちひさくわが子が交(まじ)…

子を詠む(3/6)

叱りつつ出(いだ)しやりたる子の姿ちひさく見ゆる秋風の門(かど) 岡本かの子 大(おほい)なる声してよべば大(おほい)なる月いでにきと子のつぐるかな 茅野雅子 ほのぼのと目を細くして抱かれし子は去りしより幾夜か経たる 斎藤茂吉 そむかれむ日の悲びをうれ…

子を詠む(2/6)

世の中にさらぬ別れのなくもがな千世もとなげく人のこのため 古今集・在原業平*「 世の中に避けられない別れというものがなければよいのに、千年でも生きて欲しいと願う子のために。」 人の親の心はやみにあらねども子をおもふ道にまどひぬるかな 後撰集・…

子を詠む(1/6)

子・児・娘いずれも「こ」と読む。「愛子(まなご)」は最愛の子。「若子(わくご)」は幼い子にも若い男子にも使う。「吾子(あこ)」は上代ではアゴと濁った。(辞典による) 銀(しろがね)も金(くがね)も玉も何せむに勝(まさ)れる宝子に及(し)かめやも 万葉集・…

『蓬莱橋』にみる父、母の歌

5月21日初版発行ということで、伊東一如さん(青森県出身、「短歌人」所属)の出たばかりの歌集『蓬莱橋』(六花書林)を読んだ。このブログで、父、母を詠むシリーズの時期と重なったせいか、伊東さんが詠んだ多くの父母の作品に惹かれた。ここでは、そ…

母を詠む(12/12)

金木犀香り漂う前庭に窓開けはなち母を逝かしむ 田島定爾 戦死せし父の墓へと母葬り長き歳月埋めまゐらせむ 小久保みよ子 七夕に母よデートをしませんか二歳で別れたかなしみ聴きます 布施隆三郎 梅の咲く湖畔に母をいざなひぬわれはこの背に負はれたりしか …

母を詠む(11/12)

黒びかりせし鯨尺和箪笥の底に母ある如く眠らす 山田さくら*鯨尺: 江戸時代から、反物を測るのに用いられてきた和裁用の物差し。1尺は約38センチ。 車椅子に乗りたる母を抱き上げて散り来る桜の光を纏ふ 小野亜洲子 赤き赤き大きな梅干しひとつ載せ食済ま…

母を詠む(10/12)

花の色定かに見えぬと言う母の車椅子押す合歓の花まで 佐藤洋子 我を生みし母の骨片冷えをらむとほき一墓下(いちぼか)一壺中(いちこちゆう)にて 高野公彦 停まる度に駅の名を問ふ母の掌にくれなゐ薄き鱒鮨を載す 志野暁子*鱒鮨: 富山県の郷土料理で、駅弁…

母を詠む(9/12)

秋草の花咲く道に別れしがとぼとぼと母は帰りゆくなり 岡野弘彦 夕まぐれ涙は垂るる桜井の駅のわかれを母がうたへば 岡野弘彦 長夜の闇にまぎれ入らんとする母を引戻し引戻しわれはぼろぼろ 山本かね子 生きものを飼はなくなりて内外(うちそと)の清(す)みゆ…